共通テスト「化学」過去問解説

2023年度(令和5年度)大学入学共通テスト 本試


どこよりも詳しく、わかりやすい過去問の分析と解説(解説動画付き)


第4問 有機化合物

問1 アルコールの分子内脱水反応

ア:CH₃-CO-R、CH₃-CH(OH)-R の構造をもつ有機化合物が、ヨードホルム反応を示します。

①がこの構造をもっているので、アから①が消せます。

 

イ:①が消せたので②を例に順にみていきましょう。

 

分子間脱水は、となりあう炭素原子についている、-H と-OH が水分子 H₂O として離脱することによっておこります。-H と-OH がわかるように(となりあうように)与えられた構造式をかき直しましょう。

(ここから先、手書きの図が続きますが、ご容赦ください。)

(色が確認しにくいかもしれませんが)上図で赤で示した価標が、それぞれ-H と-OH を離した後、結びつき、二重結合をつくってアルケンになると考えるとよいでしょう。

これに臭素  Br₂ を付加します。

上図の赤で示した価標のところが離れて、それぞれ Br と結びつくと考えるとよいでしょう。

(もともとの-H と-OH むすびついていたところにです。)

左側の炭素原子に結びついている4つの原子・原子団をみますと、

「-H」、「-CH₃」、「-CH₂Br」、「-Br」とすべてちがうものです。

このような炭素原子を不斉炭素原子といいます。

(不斉炭素原子があると、その化合物は鏡像異性体〔光学異性体〕をもちます。)

 

②が答えとわかりましたが、③、④についても確認しておきましょう。

①はヨードホルム反応を起こすということで消せましたが、これも確認しておくとよいです。

これは、不正炭素原子をもちます。

正解 ②

問2 芳香族化合物の性質

以下、構造式を示しますが、自分でも手を動かしてかいておきましょう。

 

① フタル酸を加熱すると、分子内で脱水し、無水フタル酸となります。

 この選択肢は正しいです。

② アニリンはアミノ基 -NH₂ をもつので、アンモニアに似て弱塩基です。

 よって、塩酸などの酸と反応して塩を生じます。

これは、「有機化合物の分離操作」で、よく出てくる内容です。

複数の有機化合物の混合溶液に、塩酸を加えれば、まず塩基性のアニリンが分離できます。

 

アニリン塩酸塩は水溶性なので、水層に移動します。

この水層に水酸化ナトリウム水溶液を加えると「弱い塩基も出ていけ(弱塩基の遊離)」により、アニリンが遊離し、エーテルを加えてアニリンを抽出することができ、エーテルを蒸発させればアニリンが残ります。

 

これとの混同を想定した選択肢なのかもしれませんが、アニリン自体は塩基性なので、塩基性の水酸化ナトリウムとは反応しません。

 

この選択肢が誤りを含む選択肢であり、これが答えです。

 

 

③ 「クロロベンゼン」なので、ベンゼン環についている2つの -Hが、-Cl に置換されたものです。

 選択肢の記述通り、o(オルト)-、m(メタ)-、p(パラ)- の3種類の異性体が考えられます。

この選択肢は正しいです。

 

 

④ 塩化鉄(Ⅲ)水溶液は、フェノール類の試薬です。

ベンゼン環に直接ヒドロキシ基-OH が結合した化合物をフェノール類と総称し、塩化鉄(Ⅲ)水溶液も、それに反応し呈色します。

 

アセチルサリチル酸は、そのような構造をもっていないので、呈色しません。

 

この選択肢は正しいです。


正解 ②

問3 高分子化合物の構造

こういう問題を、知識問題だとかんちがいして、あれも覚えなきゃ、これも覚えなきゃ・・・と、なってしまったらだめですよ。

 

過去問を使った勉強では、自分にも厳しく、最低限なにをおさえていれば正解をつむぎだせるのか?…そのつど、時間をかけてしっかり考えてみましょう。この問題なんか、よいきっかけになるでしょう。

共通テストは、そういう勉強に適した完成度の高い問題です。

 

 

さて、問題に入りましょう。

 

これ、選択肢の中で④だけ、ひどく浮いていますよね。

 

生体(生物体)を構成する物質として、水分を除けば、

動物の体を形成する主な物質はタンパク質(③)ですし、植物の場合はセルロース〔炭水化物〕(①)が主成分です(細胞壁の主成分がセルロース)。

 

また、核酸(②)も生物体を構成する主要な成分です。

よって、①~③はすべて、生体をつくる主要成分ということができます。

 

一方、④の「ポリプロピレン」って何でしょうか?

少なくとも、生体をつくる物質とは関係ないように思えますよね。

 

名前に聞き覚えがなくても、その場で考えて何とかなります。(覚えていた方が、いいといえばいいですけどね。)

 

名前から推理して、どういう物質だったかを思い出しましょう。

 

まず、「1-メ、2-エ、3-プロ(プ)・・・(私はこのように覚えています)」より、

プロピレンは炭素原子が3つ並んだものだとわかります。

 

「プロパン」なら『アルカン』ですが、「プロピレン」なので『アルケン』です(注:プロペンとプロピレンは同じものです)。二重結合を1つもっていることがわかり、構造式も CH₂=CH-CH₃ とわかります。

 

これに、「ポリプロピレン」と「ポリ」がついているので、プロペン(プロピレン)の二重結合の部分がひらいて付加重合したものとわかります。

この分子間に水素結合があるかどうかですが…ないですよね。

 

この大問の問1でも触れましたが、「水素は FON と握手する(水素結合)」というチャートがありました。

フッ素原子 F、酸素原子 O、窒素原子 N をこの化合物は含んでいないので、この分子に水素結合は形成されません。この選択肢が誤りを含む選択肢で、これが正解です。

 

 

①~③について、生体内の高分子化合物は、基本的に水素結合を形成していると考えていいでしょうね。

②や③は、化学選択でも知っておくべき内容です(生物選択ならもちろん)。

 

①も細胞壁の 主成分がセルロースであることは知っておきたいところですし、

細胞壁は固いので分子間の結びつきも強いだろうなと推測できますし、

糖に多くのヒドロキシ基 -OH が含まれていることからも、十分に水素結合をもつと判断できます。

 

正解 ④

問4a 二重結合を開くのに消費される水素の物質量

1分子の X は4個の C=C 結合があるとあります。

 

1個の C=C 結合を開くのに、1分子の水素 H₂ が使われますので(下図参照)、・・・


1分子の X に4分子の水素が消費されるとわかります。

これは、1mol の X と 4mol の水素が反応するとも、言い換えられます。

 

44.1g の X が何mol かを考え、それを4倍して答えです。

 

 

X の分子量は 882 です。

 

もし、X が 1mol あるとすると 882gですが、今、実際には 44.1gしかありません。

 

よって、その物質量は分数(わり算)で、

「44.1/882(mol)」と表されます。

 

 

 


これに「4」をかけて答えです。

882 と 4 を、先に 2 で約分するとよいでしょう。

 そのまま 441 で約分すればよいです。

44.1 は 441 でわると 0.1 になりますね。

 

0.1×2 の計算をして答えです。

小数第2位には、「0」を補います。

 

   0.20 mol


正解   26:0   27:2   28:0

問4b トリグリセリドの構造の判断

図1のトリグリセリドを完全に加水分解すると、次のようになります。

1分子のトリグリセリドが上図の青線のところでわかれ、

O の方に水分子由来の H がついてグリセリンに、・・・

R-CO- の方に水由来の -OH がついて、3分子の脂肪酸が生成します。

 

問4 の a に入る前のリード文に重要な情報が与えられています。

 

完全に加水分解したとき生成する脂肪酸Aと脂肪酸Bの物質量の比は1:2と与えられているので、

R¹、R²、R³の3つのうち1つが脂肪酸Aの元になるもの、2つが脂肪酸Bの元になるものです。

 

1分子のトリグリセリドXに4つのC=C結合(二重結合)があることも、すでにわかっているので、これ(二重結合)を頼りに正解をつむぎだします。

 

 

まず、過マンガン酸カリウム水溶液を加えたときの反応を解釈しましょう。

過マンガン酸カリウムは酸性溶液中で強い酸化作用を示します。

 

酸化剤としてはたらくと、自身は還元され MnO₄⁻ の赤紫色が消えるので、水質検査の試薬としても使われています。

 

これと二重結合の関係ですが、「二重結合は酸化されやすい」と、おさえておいていいでしょう。

 

これは、あまり聞いたことがない…という人がいても無理はないかもしれません。

 

ただし、炭素間の結合による油脂の分類で、不飽和結合(二重結合・三重結合)を多く含む油脂を不飽和脂肪酸といい、不飽和脂肪酸を多く含むものを乾性油といい、酸化されて固まりやすい…というのは、おさえておきたいことです。

 

二重結合の部分が酸化されると、次のような反応によりケトンが2つ生成されます。

(R₄がH、あるいはR₃とR₄がともにHの場合も、本来は考えておきたいところですが、ここでは焦点がぼやけるのでやめておきます。)

 

 

脂肪酸A、脂肪酸Bとも過マンガン酸イオンの赤紫色が消えました。

これは、どちらの脂肪酸も二重結合をもっていたということです。

 

トリペプチドX 1分子は、脂肪酸Aが1分子と脂肪酸Bが2分子から生成されていて、その中に二重結合は「4つ」含まれています。

 

二重結合は脂肪酸Aに「2つ」、脂肪酸Bに「1つ」の組み合わせ以外ありえません。

 

選択肢の中で二重結合を2つもつものは③だけなので、これが正解です。

 

正解 ③

問4c 鏡像異性体(光学異性体)の有無の判断

図1でいうところのR¹、R²、R³ の3つに入りうるものは、脂肪酸Aからのものが1つ、脂肪酸Bからのものが2つです。

 

入り方の組み合わせとしては、①脂肪酸Aからのものが一番上か下に入る(R¹ に入るのもR³ に入るのも上下反対にすれば同じです)形・・・または

 

②脂肪酸Aが真ん中の位置(R²)に入るかの2種類です。

 

①の場合・・・

*で示した炭素原子には -H、-CH₂OCOR(A)、-OCOR(B)、-CH₂OCOR(B) と4つとも別のものが結びついています。このような炭素原子を不斉炭素原子といい、不斉炭素原子をもつ有機化合物は鏡像異性体(光学異性体)をもちます。

 

①は条件に合いますが、②は合わなそうです。一応確認しておきましょう。

①で不斉炭素原子だったところは、②では上下とも -CH₂OCOR(B) と結びついていいるので不斉炭素原子ではありません。

 

よって、トリグリセリドXは①のような構造をもっていたと決まります。

 

これ(①)が、図2のように一部加水分解します。

 

脂肪酸Aができているので、一番上の -COR(A) が離れ脂肪酸Aに、

脂肪酸Bができていますが、これは化合物Yの一番下が -O-H となっているので、この部分が離れて脂肪酸Bになったと判断できます。

 

ということは、真ん中には -COR(B) が残っているとわかります。

化合物Y(上図の①’)にも、不斉炭素原子は存在せず、これで正しいと確認できます。

 

正解 ④


第4問は以上です。

ご意見・ご感想、お待ちしています。


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