共通テスト「化学」過去問解説

2024年度(令和6年度)大学入学共通テスト 本試


どこよりも詳しく、わかりやすい過去問の分析と解説(解説動画付き)


第2問

問1 吸熱反応のエネルギー図

「硝酸アンモニウム NH₄NO₃(固)が水に溶解するとき」の反応なので、

「NH₄NO₃(固)+aq」から「NH₄NO₃ aq」に矢印が向いているものから選びます。

 

「吸熱反応」ということは、「まわりからエネルギーを吸収している」ということです。

なので、硝酸アンモニウムは水にとけるとエネルギーが高い状態になるので、

「NH₄NO₃ aq」の方が上にきます。

 

正解 ①

問2 平衡の移動

右矢印の反応(正反応)が増える(=平衡が右に移動する)操作を選びます。

 

① 正反応は「吸熱反応」だという情報が与えられています。

逆反応(左矢印)の反応は、「発熱反応」です。

容器内の温度を下げると、温度を上げる方向、この場合は左に平衡が動くので、この選択肢は誤りです。

 

② 化学式の左辺と右辺の分子の数がちがう場合、容器内の圧力を上げると、圧力を下げる方向に平衡が動くので、分子の数が減る方向に平衡は動きます。

 

ですが、この反応の場合、左辺と右辺の分子の数が同じなので平衡は動きません。

この選択肢は誤りです。

 

③ H₂ を加えると、H₂ を減らす方向に平衡が動き、右矢印の反応が増えます。

CO の物質量も増えるので、この選択肢が正解です。

 

④ 圧力一定のまま気体であるアルゴンを加えるので、反応式に示される各物質の分圧は変わってきます。

でも、それはこの化学平衡には何も影響しません。

 

容器内全体の圧力(全圧)はそのままですし、そもそも②でみたように、この反応は分子数の変化による圧力の変化をともないません。この選択肢は誤りです。

 

正解 ③

問3 各種電池の電気量の比較

電池の放電による電気量なので、移動した「電子」の量によって決まります。

ですのでこの問題は、各反応の酸化数を調べるところから始めます。

(なお、酸化数の判断などから不安がある人は、下のリンクから解説ページにどうぞ)

ここでは、簡単に・・・

単体の酸化数が「0」なので、そこに着目すればすぐに決まります。

 

⑵ 「アルカリマンガン乾電池」

左辺の Zn :「0」

右辺の Zn(OH)₂ の中の Zn :OH が-1で、その2つ分と結びついているので「+2」

 

・・・Zn の酸化数が「0 → +2」と2だけ変化しているので、この反応で移動した電子は、(反応式の係数が物質量を表しているとして)「2mol」

(Mn の酸化数も「+4 → +3」と変化していて、それが2つ分なので、電子の移動がこれでよいと確認できます。各自、自分でも確認しておきましょう。解説動画の方では軽く触れます。)

 

⑶ 「空気亜鉛電池」

左辺の Zn :「0」

右辺の ZnO の中の Zn :Oが-2なので「+2」。反応式の係数に注意です。Zn 原子1つあたり2つの電子が移動しました。係数に2がついているので、Zn 原子2つ分の電子の移動を考えます。

 

この反応で移動した電子は、2×2より「4mol」になります。

 

⑷ 「リチウム電池」

左辺の Li :「0」

右辺の LiMnO₂の中の Li :化合物中の1族元素なので「+1」

 

この反応で移動した電子は「1mol」です。

 

 

【アルカリマンガン電池】では、⑵の反応式から、2mol の MnO₂ 、1mol の Zn 、2mol の H₂O が消費されると、上で調べたように 2mol の電子が流れます。

 

⑵の左辺のこの物質量での質量は、表1より、「87×2+65+18×2=275」、よって計275g 消費されると 2mol の電子が流れるとわかります。(なお、この総量の275gは右辺も同じはずなので、そちらからも確認できます。右辺で考えると、88×2+99=275と同じ数値になります。⑵、⑶などは、右辺で調べた方が速いですが、どちらも計算し、確認するようにするとよいでしょう。)

 

今、反応物の総量が 1kg(=1000g)消費されるときに流れる電気量を考えています。 

1000g の中に、2mol の電子が流れる質量の 275g がいくつあるかを考えればよいので、1000÷275のわり算(分数)で、それに2をかければ、反応物が1000g消費されたときに、移動した電子の物質量になります。

これにファラデー定数をかければ、問われている電気量になりますが、そこまですることもないですね。

 

電気量の大小比較なので、流れた電子の物質量の大小がそのまま電気量の大小になるので、このまま進めましょう。


(とはいえ、わざわざ計算することはなく、例えばファラデー定数を F として先ほどの物質量に F をつければ電気量になりますので、その方がリアリティをつかみやすいという人はそうしてみればいいでしょう。)

【空気亜鉛電池】についても、反応物の式量の計が、32+65×2より、「162」

…この反応により 4mol の電子が移動するので、反応物 1000g が反応したとき移動した電子の物質量は・・・


【リチウム電池】について・・・

反応物の式量の計は、6.9+87より93.9

…きりが悪くてヤダなと思いましたが、生成物の LiMnO₄ の式量が94なので、これを使いましょう。

有効数字の問題で同じものですし、どちらで計算してもその差は微々たるものです。

リチウム電池の場合、この反応で 1mol の電子が移動するので、反応物 1000g が反応したとき移動した電子の物質量は・・・

・・・と、なります。

 

後は、これらの大小比較です。

分子の「1000」は共通しているので、これはそのままにしておくのが得策です。


分子が同じとき、分母が小さいほど大きな数になります。

「1000」をそのままに、「×2」、「×4」の部分を、分母と(むりやり?)約分してみましょう。

ただし、大まかな値がわかればいいので、整数部分までわればいいです。

「40.…< 94 < 137. …」なので、この順で流れる電気量も大きくなります。

すなわち、「空気亜鉛電池 > リチウム電池 > アルカリマンガン電池」の順です。

 

答えを出してから気づきましたが、これって、わりとあたりまえのことかもしれませんね。

 

アルカリマンガン乾電池というのは、いわゆる、ふつうの「乾電池」のことであり、

リチウム電池というのは、いろいろな型のものが多いですが、銀色で小型でボタン型のものに代表されます。

だいぶ、大きさがちがいますよね。

 

空気亜鉛電池というのは、補聴器などに利用されているそうです。

 

一定の質量(この問題では 1kg)でどれだけの電気量を出せるかというのは、電池としての能力の高さともいえるでしょうから、この答えで当然といえるかもしれません。(実際のテストでも、答えを出した後、こういうところまで考えられると、得点力が安定しますよ。)

 

正解 ④

問4a モル濃度と電離度の関係を表すグラフ

もちろん、知識問題ではありません。

「ともなって変わる2つの量」の関係を、自在にグラフに表せるように・・・というのは、近年の共通テスト理科の「はやり」のようなものです。そのつもりでのぞみましょう。

 

この問題では、モル濃度 c (mol/L) と電離度 α の関係式を求めます。

弱酸HAの電離式から始めましょう。

HAは1価の弱酸なので、一部が電離し、水素イオンH⁺と1価の陰イオンA⁻を生じます。

「電離度」とは「割合」であり、そして「割合」というのはかけるためにあります。

 

 c (mol/L)  のHAが電離して、どれだけのH⁺やA⁻が生じるのかは、全体の c に電離度の α をかければ求められます。

 

H⁺やA⁻は、c に α をかけた cα  (mol/L)  生じます。(モル濃度で考えているのが考えにくいという人は、今、1Lの水溶液でこの操作を行っており、cα  (mol) のH⁺やA⁻が生じたと考えるとよいです。)

 

一方、HAは cα  (mol/L) だけ減少します。

 

平衡に達したときのHAのモル濃度は、

c-cα=c(1-α) と表されます。

 


「反応前」、「反応量」、「平衡状態」の関係を表にしてまとめてみましょう。

(ここでは示しますが、自分で一からつくれるようにしておきましょう。)

これをもとに、HAの電離定数を考えます。

分子・分母の c が1つずつ約分できます。

 

また、設問文の最後に「α は1よりも十分小さいものとする」と、ありますよね。

これは、「1-α」を「1」として扱ってよい…というヒントというか、むしろ指定というべきものです。

上記のように、分母は1になるので・・・

・・・と、表されます。

(逆に、このような指定がある以上どこかで近似は使うのだろうと考えましょう。そういうところが、テストでの得点力につながります。


 

また、c=c₀ のとき α=α₀ という情報もあるので、これらをあてはめると・・・


これらを等号で結べば、c と α の関係式を導けます。

c₀ や α₀ は定数として扱えます。

「c₀ α₀²」は定数なので、この形で「c と α² は反比例の関係にある」と判断し、解答できるのですが、その説明ではわからないという人も多いでしょう。 


選択肢の縦軸が α になっているので、この式を「α =  」の形に変形してみましょう。

c₀ や α₀ は定数なので、α は c の平方根(√c)に反比例するとわかります。

 

平方根に反比例」というのが、あまりなじみないという人もいるかもしれません。

でも、反比例は反比例なので、形から正解は④か⑤にしぼられます。

 

後は具体的な数値で確認してみましょう。

c=c₀ のとき、α=α₀ なのは当たり前というかそれが前提で、前選択肢に共通しています。

 

④のグラフの c が 4c₀ のとき α も読み取れる点になっていることに着目し、上の式に c=c₀ を代入してみましょう。

α=(1/2)α₀ となり、④のグラフと一致し、これが正解だと判断できます。

 

正解 ④

 

なお、⑤のグラフは「c と α が反比例の関係にある」ときのグラフです。

ですので、わかる人なら最初に得た「c と α² が反比例の関係にある」という情報だけで④を選べるのでしょうね。すごいですね。(私は、c=4c₀ を代入しないと、判断できない、というか安心できません。)

問4b 電離定数の計算

わりとなんでもないですよ。

 

弱酸HAの電離定数は、先ほど・・・


・・・と、表しました。これにあてはめれば答えになります。

 

[H⁺]=8.1×10⁻⁵ mol/L は与えられています。

 

他のものも NaOH 水溶液の滴下量が 2.5mLのときのモル濃度は図1から求められます。

いずれも、ちょうど読み取りやすい値になっていて、

 

[A⁻]=0.02mol/L 

[HA]=0.06mol/L ・・・これらの値を代入し、 

分母を簡単にすることを考えるのが原則なので、分母・分子をそれぞれ100倍し、6と2にしましょう。

後は、2と3でぴったり約分できます。

 

正解 ②

問4c 中和反応によるイオンの数の変化

①は、考えるのがやっかいそうなので(本当はそうでもないですけどね)保留にしましょう。

明らかに「誤りを含む」選択肢があれば、正答は簡単に判断できます。

それも、テストにおいて大切な心がまえです。

 

②:この選択肢は正しいです。

[H⁺](水素イオンの濃度)と[OH⁻](水酸化物イオンの濃度)の積は、温度によって決まった値をとり、それを水のイオン積といいました。

 

③:NaOH水溶液の滴下量が 10mL 未満の範囲で[A⁻]が増加しているのは、図1から明らかです。

この選択肢では、その理由として下線部の内容が適切かを問われています。

 

NaOH水溶液が加えられると、 水酸化物イオン OH⁻ が弱酸HAから少しずつ電離している水素イオン H⁺ と「H⁺ + OH⁻ → H₂O」の中和反応を起こし、H⁺ が使われて(少なくなって)行きます。

H⁺ が少なくなっていくので、電離平衡の式の右反応

「HA → H⁺ + A⁻」が多くなり、[A⁻]が増加します。

 

 


「平衡が右に移動した」といえるので、この選択肢は正しいです。

 

④:図1から NaOH水溶液を10mL滴下したところで、[HA]はなくなっていることがわかります。

10mLまでは、NaOHを加えていってもOH⁻はH⁺と中和反応でH₂Oになるので増えることはありませんでしたが、10mL以降は増えていっています。

 

10mL滴下した時点で、中和反応が完了したとわかります。

 

10mL以降、A⁻ のイオン濃度が減っていくのは、NaOH水溶液を加えるので、その分うすくなっていくからです。

 

参考に、10mL滴下のときの[A⁻]をみると、0.05mol/Lになっています。

もともと、HAのモル濃度は 0.10mol/Lだったので、体積が変わらずすべて電離したとすると、A⁻ のモル濃度は 0.10mol/Lになるはずなので、その半分です。

 

もともとのHA水溶液の体積は 10mL、そこに NaOH水溶液を10mL滴下したので、濃度が半分になってしかりですね。

 

この選択肢が誤りを含む選択肢であり答えです。

 

 

①についても検討して理解を固めておきましょう。

図1では縦軸が「濃度」になっていますが、横軸が NaOH水溶液の滴下量のまま縦軸を「イオンの総数」としたグラフをつくってみましょう。

 

 中学のとき、HCl と NaOH の中和反応で、この手のグラフは何度かつくったことはあるはずです。

高校入試などでは頻出問題ですね。それの応用です。

 

簡単にできるものなので、つくってみましょう。

試験用紙41ページの下の余白も、そのためにあるのでしょう。

 

以下、言葉で説明し、最後に完成したものを提示します。

みなさんも、まずは自分でつくってみましょう。

 

 

HA ⇆ H⁺ + A⁻ ・・・について

 

H⁺:最初からわずかに電離して存在はしていますが、ここまでの設問でみてきたように電離度は小さく、図1からもわかるように、ほぼ「0」とみなしてよいです。

 

電離しているものはOH⁻と中和反応を起こし消費され、その分HAがまた少し電離され、またそれがOH⁻と中和反応を起こし・・・というように、ほぼ「0」の状態が維持されます。

 

特に、滴下量が10mL以降にはHA由来の水素イオンH⁺ は存在しなくなります。

(水もわずかに電離しH⁺ を生じるので、完全に0になるというと語弊がありますが、)この中和滴定において、H⁺の数は常に0であるとみなせるので、グラフには入れません。

 

A⁻:HAの電離によって生じる数は微々たるものなので、ここでは無視しましょう。

HA由来の H⁺ が OH⁻ と反応した分、A⁻ がそのまま水溶液中に存在することになります。

 

A⁻ の数は、最初は0で、NaOH を滴下するにつれ増えていくことになります。

滴下量に比例しているとしていいので、10mLまでグラフは直線になります。

 

ここまで計算する必要はありませんが(計算は簡単ですけどね)、maxの物質量も求めることもでき、

モル濃度に体積をかけ・・・

 

 0.1×10×10⁻³ より、「1×10⁻³ mol」のA⁻ が10mL滴下した時点で生じます。

 

もともとあるHA水溶液の量は決まっているので、A⁻ がこれ以上増えることはなく、滴下量が10mL以降は、グラフは 1×10⁻³ mol のまま平らになります。

 

 

NaOH → Na⁺ + OH⁻ ・・・ついて

 

Na⁺:最初は0で、滴下すれば滴下するほど、中和点も関係なく増えていきます。

Na⁺ と同じ数だけの OH⁻ が H⁺ と中和反応し、その分 A⁻ が生じますので、グラフは直線で、その傾きは A⁻ の増え方と同じなので、平行(同じ)になります。

 

OH⁻:中和点の10mLまでは、入れても入れても水溶液中の H⁺ と中和反応するので0のままです。

滴下が 10mL を超えると、対になる H⁺ がなくなるので、入れれば入れるほど増えていきますが、これも直線でその傾きは A⁻ や Na⁺ と同じになります。

物質量は、イオン(粒子)の数によるものなので、上のグラフから、どの段階でも、

陽イオンの総数(Na⁺ の数)と陰イオンの総数(A⁻ と OH⁻ の数の和)は、等しいことがわかります。


第2問は以上です。

ご意見・ご感想、お待ちしています。


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